東播磨地区×兵庫大学
地域の農業、人々の健康を学生とともに応援
2023.07.25 栄養・健康
東播磨地域六条麦シュンライの健康増進効果の評価研究
六条大麦は、東播磨の特産品のひとつで、東播地域は、年間1千トンの麦茶用大麦を出荷する西日本有数の産地(注)です。しかし近年、麦茶の需要が大幅に減少してききたため、産地では大麦を使った新しい食品開発など、これまでにない用途の開拓に向けた取り組みが進められています。
(注)兵庫県HPより
研究を通じて新たな地域貢献を
今から3年前、内田亨教授に対して、JA兵庫南から「特産品の六条大麦シュンライをもっと活用したい。研究室との共同で研究を行いたい」という申し入れがありました。この提案を受け入れ、共同研究に乗り出した理由について、教授は次のように語っています。「研究室では、地域の方々と交流を図るため、以前から地元の人々を対象に健康教室を開催していました。しかし2020年以降コロナ禍が広がり、教室開催が難しくなっていったのです。そこで新たな地域貢献の形として、この共同研究を進めていきたいと考えました。JAさんと共同で行う臨床研究の結果を通して大麦の健康効果が広く浸透すれば、大麦の消費が増え、生産が拡大し、ひいては農家の方々にとってもプラスになります。さらに、共同研究に学生も参加すれば、コロナのために学外の方々と繋がる機会を失っていた彼らにとっても、状況を変えるチャンスとなるかもしれないと思いました」。
大麦の健康効果を公募実験で検証
翌年の2021年から、六条大麦の健康効果を測定する臨床研究が、授業の一環としてスタートしました。大麦には血糖値やコレステロール値の低減などの健康効果があるとされていますが、この効果を客観的に示すことが研究の目的です。初年度(2021~2022年)には基礎研究として、JAが加工製造した六条大麦粉が含まれたパンを学生と教職員が被験者となって1日1回8週間、継続的に摂取しました。測定の開始時・終了時には唾液検査を行なって免疫力向上などの効果を調査するとともに、内臓脂肪・体脂肪などの体成分も測定しました。
「この年の結果から、いくつか評価できる項目がありそうだと分かったので、2022年の夏からは母集団を大きくして研究を続けようということになりました」(内田教授)。
2年目の臨床研究では被験者を公募で募りました。集まったのは100人に上る、さまざまな年代の地元の人々です。この人たちに前年度と同様、8週間大麦粉入りパンを食べ続けてもらい、データ収集を行いました。研究にあたって、被験者とコミュニケーションをとったのは栄養マネジメント学科の学生たちです。一般の人には見慣れない測定装置の使い方をわかりやすく説明し、測定のスタート時と終了時に検査項目のデータを採取、さらに自分たちも被験者となって大麦粉入りのパンを食べ、美味しく食べられるレシピの開発にチャレンジしました。
データ測定を通じて地域の方々と交流
研究に参加した学生たちに話を聞くと、「大麦のパンを毎日食べながら、どうすれば健康にプラスになって美味しくなるかなと、サバ缶など、いろいろなものをプラスして研究しました。発表に参加できたのもいい経験でした(田中柚衣さん)」。「自分で食べてみると、大麦のパンはパサパサしがちで食べにくいとわかりました。そこで、どうすれば美味しく食べられるか工夫しました。レタスやスクランブルエッグを乗せたサンドイッチがおすすめです(篠原愛佳さん)」。「私はクリームチーズが合うかもしれないと思いました。むずかしかったのは、体成分分析装置の使い方を被験者の皆さんに説明すること。指示通りに使わないと正確なデータがとれないので大変でした(小西真未さん)」。「内臓脂肪など体成分を測る検査では、測定するだけでなく、地域の方々と交流し、いろいろお話しさせていただいたのが貴重な経験でした。やはり意思疎通が大切だと感じました(後田あゆみさん)」。
大麦は血管年齢の老化を防ぐ可能性あり
ここまでの研究について内田教授は「1年目には便通促進効果を実感した方が多くおられたほか、免疫力向上が見込めそうだとの結果が出ました。2年目となる今年の研究では、便通促進効果とともに、血管年齢の向上効果に有意な差が出ました」。血管年齢は、血管の老化の具合を表していて、血管の老化が進むと、血流が流れにくくなってさまざまな疾病を引き起こすリスクが高くなります。今後、大麦の継続的な摂取によって血管の老化にブレーキをかけられることが明らかになれば、大きな成果を上げたといえるでしょう。
今後の課題については、「8週間という研究期間は、まだまだ短いと感じています。もっと長期にわたって大麦の健康効果について調査していきたい。そのためには、長く食べ続けてもらえるよう、味や食感の改善、レシピの提案など、さらなる工夫も大事だと感じています」(内田教授)。
学生は最終プレゼンテーションにも参加
臨床の現場で奮闘した学生たちは、客観的な効果を測定するとともに、被験者の感想や意見も収集、さらに、大麦の健康効果についてもっと理解してもらいたいと、手作りのリーフレットを作成しました。測定にやってきた人々に配布すると「興味をもって読みました」「しっかり説明してくれて嬉しかった」と反響があったそうです。内田教授も「学生たちは被験者の方と親しく交流して、上手にデータを収集してくれました。8週間研究を続けた結果、ずいぶん頼もしくなってきましたね。地域の人々とのコミュニケーション力が向上していったのがよく分かりました。
3月に実施した研究発表では、被験者の皆さんと大学関係者、報道関係者を前にして、研究の成果を堂々とプレゼンテーションするほどに成長しました」と高く評価しています。また、今回の研究が刺激となって「食と栄養について、さらに究めたいと思うようになりました」という田中さんは、大学院への進学も考えていると熱い思いを語ってくれました。
測定に参加した地元の人たちからは「貴重な経験ができた」「以前よりも健康を意識するようになった」「大麦を地元特産品として見直すようになった」など、さまざまな感想が聞かれました。そのなかには、検査から研究発表まで一生懸命に取り組んでいた学生たちへの労いの言葉もあったそうです。このようなところからも、地域の人々と学生との距離が近づいたことが感じられます。専門分野を通じて地域との交流を深めていけたことが、学生にとって大きな収穫となりました。
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内田 亨
健康科学部栄養マネジメント学科 教授
実践食育研究センター長 専門:糖尿病
後田 あゆみ
健康科学部栄養マネジメント学科3年生
(兵庫・兵庫大学附属須磨ノ浦高等学校出身)
篠原 愛佳
健康科学部栄養マネジメント学科3年生
(兵庫・兵庫大学附属須磨ノ浦高等学校出身)
小西 真未
健康科学部栄養マネジメント学科3年生
(兵庫・兵庫大学附属須磨ノ浦高等学校出身)
田中 柚衣
健康科学部栄養マネジメント学科3年生