質の高い保育を創り出すよう保育者たちを応援し続ける
保育者の「やれる!」を引き出すための取り組み
2024.06.14 教育最新号
兵庫県伊丹市の公立幼稚園に25年間勤務し、そのうち8年を管理職として働いてきた経験をもつ藤本講師。その間に「どの園でも、多くの若い人が保育の面白さを知る前に辞めていくのはなぜだろう」という疑問を持ったことが、現在の研究に取り組み始めたきっかけです。
最近の保育者には、以前とは少し変わったところがありますか?
自分のことを振り返ると、新人時代は決してできのよい保育者ではなく、園長にはよく叱られていました。でも私の周りには、常に支えてくれる先輩や同僚がいました。おかげで何とかやってこられたように思います。ところが今は、職場の仲間とのつながりを作りにくい若い人が多く見受けられます。管理職との関係づくりは上手なのですが、仲間との関係が薄い。横のつながりがよくないと、なかなか仕事はうまくいきませんから、これは大変残念なことです。
研究のプロセスについて教えてください。
そこで研究の出発点に、保育者が職場の仲間と良好な関係性をもっているかを示す「同僚性」という指標を置いてみました。同僚性が高い組織は、保育者同士が互いにつながりあえるので、保育の質が上がっていきます。それは職場の仲間に「どうしても用事があるから、園児を一時見守ってもらいたい」といった話もスムーズにでき、結果として組織がうまく回っていくからだと思います。
さらに、保育の質を左右するもう一つのキーワードとして「保育者効力感」を取り上げました。保育者効力感とは、保育者が自分の仕事に「できる、うまくいく」という感覚をどの程度もっているかを測る指標です。2つの言葉をテーマに、伊丹市の公立保育園や幼稚園でアンケートをとって、論文を仕上げていきました。
どんな研究結果が出たのでしょうか?
「いつも挨拶をしている」「ひとつの目的を同僚と成し遂げている」など10項目の同僚性アンケートと、「保育に自信がある」「人と一緒なら何でもできる」などを問う保育者効力感アンケートを行なって分析すると、両者には正の相関関係があることが分かりました。
また、「雑談」というインフォーマルコミュニケーションと同僚性の相関関係も調べたところ、ここでも「雑談がスムーズにできる」ことと「同僚性が高まる」ことには明らかに関連が認められました。
研究成果は学生へどうフィードバックされていますか?
授業を通じて、学生の自己効力感、同僚性を高める工夫をしています。学生の中には初めて会った人と話すことに苦手感を持っている人が多いので、グループで話す機会を増やし、同僚性の大切さを認識してもらいます。また、実習を通じて「楽しい」と感じてもらうことを重視しています。実習から帰ったとき、みんないい顔をしているのは「やり通せた、できた」という体験が効力感を生み出すからです。
保育の現場と研究室の両方を経験しての感想を。
保育と大学教育という、ふたつの現場に関われるのは興味深いことです。大学の教育者として、同僚とのコミュニケーションを通じて刺激を受けると、私自身の効力感もアップするように感じています。これからも保育現場にどんどん足を運び、大学と保育現場をつなぐパイプ役となれればうれしいですね。
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藤本 若菜
短期大学部保育科 講師 専門:幼児教育学・保育者の専門性