学生と、地域とともに成長していくために
大学に何ができるかを考え、やりぬき、次代につなぐ
2023.07.25 学長座談会
2023年は兵庫大学に教育学部が誕生した年であり、大学の母体である睦学園が100 周年を迎えるという大きな節目の年にあたります。兵庫大学がこれからも東播磨地域を代表する高等教育機関として、地域とともに、学生とともにあり続けるためには、どのように舵を取り、どこに向かうべきか。今号の学長座談会では、それぞれ兵庫大学の卒業生と元教員であり、現在は大学教育の現場で学長として陣頭指揮にあたっておられる2人のゲストが、河野学長とともに次代の大学の在り方をめぐって議論しました。
教員と学生、教員同士のきずなの深さ
河野兵庫大学とのつながりや、思い出についてご紹介ください。
小原30年ほど前に、兵庫女子短期大学(現:兵庫大学短期大学部)の食物栄養学科で教鞭をとりました。ちょうど4年制の兵庫大学ができたころです。あの頃の教員は兵庫大学、短期大学に関わりなく、これからどんな大学を作っていこうか、よく議論していました。当時もそう思いましたが、名城大学で学長を務める今も、兵庫大学の建学の精神「和」は、よい考え方だとしみじみ思います。
濱田私は、兵庫女子短期大学の保育科第三部の一期生です。高校時代は山口県でバレーボールざんまいでしたが、親元から独立して働きながら学びたいという気持ちが強く、兵庫女子短期大学への進学を決めました。仕事と学び、両立の日々の中で、ホームシックになる友人もいました。そんな人たちを慰めながら勉強したことを覚えています。兵庫女子短期大学は自然に恵まれた素晴らしい環境で、近くの池のあたりを散歩するのが大好きでした。学園祭で家政科のファッションショーのモデルを務めた際に、みんなが歓声を挙げて喜んでくれたのが今でもよい思い出です。
河野短大時代からの伝統でしょうか。兵庫大学には素朴でひたむきで、ダイヤの原石のような学生が多いですね。教職員は、学生のために国家試験合格や就職に向かって、親身になって伴走する方が多い。この冬休みの間、コロナ禍の受験指導をどうするかという問題が浮上した時も、「安全のため、リモートでやりましょうか」と学生たちに問いかけたら、「やはり、仲間や先生と一緒に勉強したいです」と言ってくれました。教室を分散し、感染対策をとりながら指導しました。学生と教員のきずな。それは伝統的に培われてきたものでしょう。
濱田姫路日ノ本短期大学でも、コロナ禍にあって、学内実習を工夫しながら進めました。実習受け入れ先によい返事をいただけないこともありましたが、実施日をずらすなど工夫して受け入れていただきました。
小原最近になって文科省は「多様な経験によって課題解決力を」と提唱するようになりました。名城大学でも、海外の学生とインターネットを通じて交流し、海外に出る前に擬似留学体験を実施するなど、今までにない取り組みを行なっています。
河野多様な経験とともに、新しい学びの手法にも関心が高まっていますね。例えば、様々な場面で課題を見出し解決していく「PBL型学習」が脚光を浴びています。これは新しい学び方ですね。どのようにこれを進化させていくか、兵庫大学でも試行錯誤が続いています。
大学が直面する今日的課題に向けて
河野 少子化の時代にあって、いちばん大事なのは教育の質を上げることですね。また、日本の社会に優れた人材を新たに送り出すことも大事ですが、そこにとどまらず、今までとは異なる大学の在り方も考えていかねばなりません。例えば、大学は「日本の」「若者の」ためだけにあるのかを問い直してみる。海外からの留学生のために、社会で活躍する人々のために何ができるのか。そこからリスキリング、リカレントといった観点も生まれます。そうなると今度は、改組転換などを通じ、新規のニーズを汲み上げていくという可能性もあります。海外ということでは、私たちが展開している専門教育の中には、栄養や医療・福祉などアジア各国で解決策が求められている分野が多々あります。成長著しい国々では、今後、生活習慣病が急拡大していくことが懸念されていますが、これにどう対処するかは、すでに多くのノウハウを持つ日本の大学、研究機関がサポートできる。教育、ビジネスなどの分野でも同様です。大学は国内市場だけにとらわれず、発想を転換して新しい動きをつくっていくべきだと思います。
小原 リスキリング、リカレント、留学生受け入れ、すべてこれからの時代に重要な課題だと思います。その他の切り口としては、名城大学の場合は「デジタル人材」「グリーン人材」の育成にも取り組んでいます。前者については「データサイエンスAI入門」という科目を学部共通で開講し、自分の学部の学びとデータサイエンスはどうつながるかを伝えています。グリーン人材育成は農学部に対応したテーマです。大学院の研究者レベルで進められてきた医農工連携、医薬連携などの共同研究を、大学レベルで進めていきたいと考えています。
濱田 少子化の時代にあって、今が姫路日ノ本短期大学の存亡をかけた正念場だと思っています。保育コース以外にライフデザインコースを設置し、資格取得にこだわらず、ITやビジネススキルを学びたいという人を広く受け入れています。9月入学に対応し、海外からの留学生受け入れも検討しているところです。
それぞれの大学における地域連携
河野名城大学、姫路日ノ本短期大学の地域連携の事例をご紹介いただけますか。
小原名古屋市、刈谷市、岡崎市などさまざまな行政との連携が進んでいますし、企業や日進市との連携では、自動運転システムの実装実験に取り組んでいます。中部地区全体では、農学部のない富山県の氷見市が、農学部との連携をきっかけに全学規模の連携へと拡大したという例もあります。
濱田姫路日ノ本短期大学は姫路市、加西市、朝来市と包括協定を結び、幼児教育のキャリアアップのための講師派遣や、シニア向け講座を実施しています。また世界60カ国のおもちゃを9万点集めている「日本玩具博物館」「香寺民俗資料館」との提携により随時見学授業を行い、大学講師が近隣の園児たちに遊びの機会を提供しています。
河野東播磨地域には大学は兵庫大学しかありません。そこで、近隣3市2町と連携協定を結び、教職員が地域や自治体の活動をサポートし、さまざまな提案、取り組みを行なっています。例えば、地域の幼児、保護者の方々を対象とした「子ども大学」、高齢の方を対象とした「なごみカフェ」、多くの講座を開講する「エクステンション・カレッジ」などです。また、これまでは個別で進められていた協力関係を広く拡大しようという意図で、地域の課題解決に向けてさまざまな人、団体とともに協働する「地域創生人材育成プラットフォーム」を構想中です。さらに、地域の課題解決のプロフェッショナルを育てようと開設した大学院現代ビジネス研究科では、専門家を含めた多くの社会人が学んでおり、ここでの研究成果を学部へと浸透させたいと考えています。
小原兵庫大学は地域に根ざした活動を昔からやっておられます。発信もうまいですね。エクステンション・カレッジは、創設時は大学の教養レベルの授業をめざしていたのですが、最近はリスキリングに力を入れることを検討しており、ビジネスマン対象の授業も増設する予定です。
誰もが夢を追い続けてほしい
小原2019年にノーベル化学賞を受賞された吉野彰さんは、名城大学の教授でもあるので、スウェーデンに行く時に同行したのですが、その際に若い人へのメッセージをお願いしたところ、「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな、と言うけれど、未熟な穂は天に向かって立っている。若者には天を向いて、とんがっていてほしい。そうすればきっと実る。夢をしっかりもって。失敗してもいいから。まず一つの夢を追いかけて、ダメならまた別の夢を追いかければいい。コロナ禍、経済格差、いろんな問題があるけど、諦めないで、夢の達成に向けて工夫してほしい」と言われました。今は若い人だけでなく、リカレントの方、地域、ビジネスで頑張っている方にも、さらに上向きに進みたい人がおられる。そういう方々に大学を活用していただきたいと思っています。
濱田私はこれからも、学生とともに成長していきたいですね。「継続は力なり」は本当だと今改めて思います。努力は必ず報われます。
河野今の時代、自分に自信のない若い人が多いように思います。私は、人生の後半戦で逆転ホームランを打つ人をたくさん見てきました。だから若い人たちには「十分に伸びしろがあるのだから、あきらめないでほしい。人生100年時代、18、19歳なんて野球で言えばまだ二回も終わっていない。二回であきらめるなんて、あり得ないですよ」と言いたい。自信をもって、上を向いて歩み続けてほしいですね。
小原濱田さんを始め、兵庫大学は地域で活躍している卒業生も多いですね。
河野兵庫大学は6月にかけ、100周年イベントで盛り上げていきます。これからも学生だけでなく、卒業生にも地域の方々にも、親しみやすい大学であり続けたいと思います。
- 学長座談会
- 教育
姫路日ノ本短期大学 学長
幼児教育科 教授
研究分野:保育法論・こども家庭福祉
濱田 敏子はまだ としこ
名城大学 学長
農学部 教授
研究分野:食品化学
小原 章裕おはら あきひろ