
社会的養護が必要な子どもたちの心の問題にアプローチする
2025.07.28 vol.17教育最新号
保育者とのコミュニケーションを通じ、解決策を模索
保護者が養育困難であるために施設などで暮らしている子どもたちの心の問題に焦点を当て、支えている保育のプロの声を聞きながら、研究を進める坪田准教授。教室でも、保育者が福祉の問題を理解する重要性を説いています。
研究の内容を教えてください。
社会的養護を必要とし、施設などで暮らす子どもの数は、全国で4万人以上といわれています。私はそういう子たちの苦しみを知り、彼らが喜びや安らぎを見出す道を探るために、児童養護施設などと連携し、保育者の声を通じて調査分析を続けています。
大学、大学院では福祉を学んでいましたが、そのなかで虐待され、心にダメージを受ける子どもたちの問題が気になるようになりました。そこで、心理学、精神医学の観点から福祉を考える「精神保健福祉」という分野を専門に研究するようになり、現在に至っています。
施設で働く保育者の方々から、よく相談を受けると聞きました。
保育者の皆さんの声を集めて研究しているうちに、「悩みを聞いてほしい」「アドバイスが欲しい」という相談にも乗るようになりました。保育者が子どもとの関係性を構築する上で、抱える悩みはさまざまです。経験の豊富さ、育った環境の違いなどによっても悩み方が違うので、相談を受けても、決まった答えが用意できるわけではありません。ただ一つ言えるのは、子どもたちの笑顔を真ん中に置いてほしいということ。その上で、いい状態で生活を続けるためのサポートを考えていってほしいと思っています。
教育者として、保育を学ぶ学生たちに知ってほしいことは?
保育を学ぶ学生からの授業の感想に、「保育者になりたくてここに来ているのに、なぜ福祉を勉強するのだろう」というものがあります。福祉というと、高齢者や介護といったイメージを持っているんですね。でも、福祉とはどういうもので、子どもたちにどのようなサービスを提供すべきかなどを説明すると、福祉は保育の基本であり、必要なものだということを理解してくれます。
学び初めの頃、「福祉はしんどい、大変だ」と思っていた学生たちも、学年が進み、知識や実習経験を重ねることで、話す言葉にも深みが出て、大きく成長していきます。彼らは現場を体験した後、大学に戻り、教科書に書かれている理論と現場の共通点や相違点を考えます。理論を知った上で現場を知ることは大変重要です。
私が使う教科書の中には、虐待を受け、ひきこもりとなったり、精神的な疾患に陥ってしまう子どものことも書かれています。保育者として社会に出て、同様のケースに直面したときにどう対応すべきか深く考えるために、ぜひ知っておいてほしい内容です。
これからどんなことに着目して研究を続けられますか?
私は、学生たちと接する中で、学生から新たな視点をもらっています。学生たちとともに成長し続けているのだと実感します。今後は自分の専門領域である心の構造について知識を深めていくとともに、地域の人々との交流の視点も加えて、調査の幅を広げていきたいと思います。この研究を通じて、子どもたちと保護者、そして支える人たちにより幸せな世界が広がっていくならば、これに勝る喜びはありません。
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坪田 章彦
短期大学部 保育科 准教授 専門:社会福祉学、こども福祉、精神保健福祉、公衆衛生学
【研究テーマ】社会福祉学視点における保健・養護に関する研究