管理栄養士の資格を持つ吉田麻紀さん。本学を卒業した後、福祉施設で知的障害者や自閉スペクトラム症者とともに働く道を選びました。就職先は、国産大豆を使った手作り納豆の製造、販売に取り組む高砂市内の多機能型事業所。一般的な就労が難しいホーム利用者さんたちとともに、栄養学の知識を生かして活動を続けています。

栄養士×福祉に、新しい可能性を感じた

吉田さんは在学中、将来の進路として小学校の栄養教諭や保育園での食育指導などを考えていました。しかし、学科の先生からの紹介を受け、福祉施設への就職を決断。「利用者さんと一緒に納豆の製造、販売を行っている事業所で、さらに本格的な工房を設置して販路拡大や商品開発をめざしており、そのために栄養学の専門家を求めていると聞いたからです」。新しい可能性のある仕事だと直感し、実際に施設も見学したうえで、「ここで頑張ってみよう」と気持ちを固めました。

障害がある人と、心の距離を近づける

就職した当初は、職場にはすぐ馴染めるだろうと考えていました。「福祉系の学科の出身ではないけれど、大学ではボランティアサークルで障害のある人と一緒に活動する経験もしてきました。だから問題はないだろうと思ったのです」。しかし、1年目はやはり大変でした。「施設利用者さんからなかなか信頼してもらえず、やっていけるかなと難しさを感じました」。職場の先輩のように上手にコミュニケーションできないという悩みを抱えました。
そんな中でも焦らず、利用者のことを理解しようと努めた吉田さん。先輩からのサポートも受けながら働くうちに、互いの心理的距離が近づいていきました。「作業終了時の報告などを、先輩職員さんでなく、直接私のところまで言いにきてくれるなど、少しずつ打ち解けてくれるようになった。うれしかったですね」。

納豆の販売を増やし、みんなを笑顔にしたい

昨年は納豆製造専用の施設「納豆工房なっとこちゃん」がオープン。地元スーパーマーケットのほか、給食会社、他の障害者施設などに販売しています。「以前の3倍、1日に1000カップの納豆が出荷できるようになって、とても多忙な毎日です」。
将来の夢は、「新商品の開発をもっと進め、販路を拡大すること。もっとうちの納豆を食べてもらうこと」。納豆の販売量が増えれば、施設利用者さんへの経済的還元が増えるとあって、力が入ります。納豆づくりの仕事自体も楽しいけれど、利用者さんの表情がいきいきと輝く様子を見るのが何よりうれしいそうです。

振り返って感じる大学時代の大切さ

吉田さんは、働き始めてから大学での学びの大切さがわかるようになったと語ります。「学生時代を振り返ると、食や栄養に関することをしっかり勉強させてもらったのだと感じます。当時の教科書や、先生から推薦された専門書は今でも使っていますが、『この本があってよかった!』と思うことは多いです」。
後輩へのメッセージを聞くと、「学生時代は思い切り楽しんで、自分にプラスになることをどんどんやってください。社会人になると忙しいですよ」。時間がある学生時代には、どんなことにもチャレンジしてほしいと締めくくりました。

吉田 麻紀 さん

兵庫大学健康科学部栄養マネジメント学科を2019年3月に卒業後、同年4月より社会福祉法人あかりの家 ワークホーム高砂に勤務。納豆工房「なっとこちゃん」所属

現代ビジネス学科 留学1期生の挑戦

2020年春、現代ビジネス学部では本格的な長期留学生の受け入れをスタートし、海外からの留学生が入学しました。日本での学びのスタートを切った学生たちは、新型コロナウィルスの影響が大きかったこの1年で、どんなことを経験したのでしょうか。入学のきっかけ、本学での学びの魅力、将来の夢など、学生生活について聞きました。

日本への留学のきっかけを教えてください。

王 梓(以下、王)以前から日本文化に興味があり、日本で日本語を学んできましたが、ぜひ大学で勉強したいと思いました。兵庫大学を選んだのは、私の日本語の先生が、本格的に学ぶならば兵庫大学がいいと推薦してくれたからです。

デシ クリスティナ(以下、デシ)私のもともとの興味はビジネスです。グローバルに活躍する日本企業に興味をもったことが、日本でビジネスを学ぼうと思ったきっかけです。ビジネスについて学ぶうちに、日本の文化にも関心をもつようになりました。

榎木 浩学科長(以下、榎木)現在、現代ビジネス学科では、中国、インドネシア以外にベトナムやネパールからの留学生合計19名が、日本人学生と肩を並べて学んでいます。アジアの国際交流が自然に行われ、活気あふれる学習の場になっています。

現代ビジネス学科の学びの魅力は?

学習する内容が、とても実践的だということです。例えば、イベント企画の勉強をする際には、「現代ビジネス学科の学びをPRする」というとても身近な課題が与えられました。

デシビジネスコンペに積極的に参加できるので、実力を磨くチャンスが多いですね。チームでのコンペ出場を通じて、仲間とのコミュニケーション力も伸びているように思います。

榎木実践的なチームプロジェクトに1年目から関わっていくことで、学生たちの実力を高めようと考えています。留学生にとっては、日本人の学生と一緒にチャレンジすることになるので、学生たちは協働でプロジェクトを進める力がぐっと向上しましたね。

日本人学生との交流について。

友人とは授業や日常生活について、日本語で話します。互いの国の文化の違いがわかるので楽しいですね。

デシ日本語で同級生と話すのは難しいですが、とても楽しい経験です。私は一緒に学ぶ仲間との交流を深めたかったので、兵庫大学の留学生交流会を立ち上げました。これからは、留学生と日本人学生が仲良くなるチャンスをもっと作りたいです。

榎木コロナ禍という大変な状況ですが、留学生、日本人学生間の交流機会をできるだけ設定し、どんな時にも学生たちが孤立しないよう、仕掛けづくりを続けていくつもりです。

将来の夢を聞かせてください。

デシ卒業後は日本で就職をして、ビジネスの経験を積むとともに、日本との関係を深めていきたいですね。その後、故郷のバリ島で起業するのが夢です。バリ島の自然や文化を生かした観光関連のビジネスを始めたいと考えています。

貿易関係の仕事に就きたいと思っています。日中間で需要の高い生活用品や化粧品、土産物などの輸出入に関わりたいですね。

榎木留学生はいつも本当に頑張っています。この努力は、日本人学生にも大きな刺激になり、キャンパス全体が活気づいていくように感じます。留学生たちの今の努力は、将来大きく実を結ぶものと期待しています。

榎木 浩

現代ビジネス学部
現代ビジネス学科
学科長 教授
【専門】情報工学
(情報システム、ソフトウエア工学)

デシ クリスティナ

現代ビジネス学部
現代ビジネス学科2年生
インドネシア・バリ島出身

王 梓(オウ シ)

現代ビジネス学部
現代ビジネス学科2年生
中国・遼寧省出身

人形劇団 わくわくさんのポケット

「わくわくさんのポケット」は、地域の子どもたちを対象に公演を重ねてきた、学生による人形劇団。以前は、多ければ年間50件もの出演依頼を受けたという人気団体です。現在は新型コロナウィルスの影響で思うような活動ができなくなっていますが、子どもたちとの新しい出会いに備えて、熱心に練習を続けています。

リモートでも練習を継続

2020年の2月まで、地域の保育園などで公演を行なっていた「わくわくさんのポケット」(通称「わくポケ」)。多い時であれば、年50回ほどの公演をこなしていました。しかし、新型コロナウィルス感染対策から、2020年度に入ると公演はすべて中止。8人の部員全員が集まることもむずかしくなりました。半年の活動中止の後、オンライン部活が始動したのが、2020年8月。10月には8カ月ぶりに仲間との対面が実現し、以後は月に2回のペースで活動を続けています。
久しぶりのミーティングを経て、改めて感じるのはコミュニケーションの重要性。部長の髙倉さんは「今年は人形の制作にも力を入れています。話し合って工夫しながら劇を作っていきたいと思います」。ピアノ伴奏を担当する坂根さんは「ふだんはチームメートのことをイメージしながら家で練習していますが、BGMをどのようにするか、どのタイミングで入れるかなど、重要なことは率直に意見を出し合って決めていきます」。

子どもたちの反応から得られる喜び

人形劇を演じる魅力は、どんなところにあるのかを聞きました。「見ている子どもたちが、音に合わせて体を揺らしたり、人形を指差したりしているのを見ると、ああ、反応してくれていると思い、うれしくなります」(髙倉さん)。子どもは一人ずつ感じ方が違い、同じシーンにウキウキする子もいれば、怖がって泣く子もいます。どんな反応が返ってくるのかと考えると2人は楽しくなるそうです。「舞台では一瞬一瞬の状況を見ながら、場面の雰囲気をピアノの音で表現しなければいけない」と坂根さんは、劇と音楽の関係について語り、「むずかしいですが、続けているうちに瞬間的に現場対応する力がついてきたように思います」。

実社会に活かせる体験

人形劇の活動は、こども福祉学科での学びにどのように役立っていると感じるかを聞きました。「子どもの気持ちや発達について、日頃の大学での講義や演習とは一味違う形で理解できるようになったと思います」(髙倉さん)。さらに「以前は人前で話すのが恥ずかしかったのに、堂々と大きな声で演じることができるようになりました」と、自身の変化も実感しています。
 坂根さんは、「上演しながら、見てくれる子どもたちの成長を観察できるので、勉強になります」。さらに、「一つの目標に向かってともに頑張る仲間ができた」喜びも味わっています。
 保育園、幼稚園など、具体的に将来の進路をまだ絞っていない2人ですが、「わくポケ」での経験を生かし、子どもたちの心の動きを見逃さず、気持ちに寄り添える専門家になりたいと夢を語ってくれました。
 再び公演ができる日のために準備を進めているのが「どうぞのいす」という新しい演目。今までとは違い、歌が入っているので、歌う人とピアノを弾く人、両方にとってどう表現するのかが工夫のしどころです。

髙倉 彩穂

生涯福祉学部 こども福祉学科3年生
「わくわくさんのポケット」部長
兵庫大学附属須磨ノ浦高等学校出身

坂根 ここの

生涯福祉学部 こども福祉学科3年生
京都府立福知山高等学校出身

加古川市の「協働のまちづくり推進事業」スタート応援型(学生枠)

「健康経営」とは、健康問題を個人でなく企業や自治体などの組織の経営的な課題と捉え、健康づくりをみんなで実践することが組織の利益につながるという考え方です。健康経営の実践として、健康スポーツ指導者をめざす学生たちが、加古川市の「協働のまちづくり推進事業」で市民の健康づくりに取り組みました。

楽しさがあって、話題になるポスターを

2020年度Ⅱ期(後期)、朽木教授と学生たちは、“健康づくりナッジ”の理論を用いて行動変容をそっと後押しするような健康啓発ポスターを制作しました。伝えたいメッセージは「エレベーター、エスカレーターがあっても階段を使うことが、健康の意識向上になる」。10名の学生たちはアイディアを出し合い、2班で2枚ずつの計4作品のポスターを完成させました。
上条さんの属する「健康意識向上チーム」は、階段上りのタイムを測る『16段チャレンジ』をテーマにポスターを制作。「これは、ゲーム感覚で階段を上ってほしいという思いから作りました。体力チェックの結果がすぐにわかるようにして、『やってみようかな』という気持ちになることがねらいです」(上条さん)。もう1枚は、月曜は呼吸、火曜は背すじなど、曜日ごとに体の一箇所に意識を向けながら階段を上るという「1日1意識!」ポスターでした。

一方、前田さんたち「自己管理能力向上チーム」は“新しい日常”をキーワードにしたポスターを作りました。「新型コロナウィルス感染拡大によって生活が大きく変化しています。身体活動不足が指摘されるなかで少しでも健康につながる新しい生活習慣として、階段上りが定着できるように工夫しました」(前田さん)。ポスターは、1日100段分の階段上りを約3カ月続けようという「100段100日」編と、コロナ禍だからこそ階段を使おうと呼びかける「Go to 階段」編。こちらは、Go toキャンペーンの話題に掛けて人々の印象に残ることをねらいました。

ポスターの効果を検証

でき上がったポスターは学内およびJR東加古川駅の階段に掲示し、「学内では、他学科の先生からこれを見たら階段を使わなきゃね、と声をかけていただきました」(上条さん)。「駅では、私たちが貼る作業をしているときにも『いい試みですね』と評価してくださる人がいました」(前田さん)。
さらにポスターを貼ったことで、階段を上る人は増えたかを検証。調査の結果、前田さんの班では「明らかに増えた」、上条さんの班では「さほど変化がなかったけれど、多くの人が目を向けてくれていました」という結果でした。調査期間があまり取れなかったことが課題として残りました。
学内のポスター掲示は、今回で3年目。駅での掲示は、上条さんが加古川市にプレゼンテーションを行ない、2021年度も事業が継続できることが決まりました。「私たちは先輩のプレゼンでこの事業ができるようになりました。そして次の学年に引き継がれます。ますますパワーアップした取り組みを期待します」(上条さん)。

実社会に大学での学びをアウトプット

朽木教授は、より多くの人が健康づくりを実践できるようなアイディアを、学生にはチームで企画・提案させ、議論してまとめることを求めています。「実社会ではチームで仕事をすることが多いので、ここで経験したことを活かせる場面が、これからたくさんあると思います」と朽木教授。学生たちも、自分たちの考えを地域社会にアウトプットできる素晴らしい体験だったと満足そうでした。

朽木 勤 教授

健康科学部 学部長 健康システム学科
【専門】健康科学、運動処方

上条 亮明

健康科学部 健康システム学科4年生
兵庫県立淡路高等学校出身

前田 久瑠実

健康科学部 健康システム学科4年生
県立姫路商業高等学校出身

独居高齢者の在宅生活継続における意思決定支援についての基礎的研究

科研費(科学研究費助成事業)とは、文科省および独立行政法人日本学術振興会が、学術研究の発展を目的に独創的・先駆的な国内の研究者・研究グループへ、審査を経て交付される助成金です。本学の石井久仁子講師(看護学部看護学科)は、高齢者看護学および地域看護学関連の基礎研究において、2019年度から3か年にわたり助成金が交付されました。

1.研究の背景について

独居高齢者が在宅生活を継続するうえでの課題

高齢化が進む中、高齢者の単身世帯も増加しています。家族と同居、または、家族が身近にいる人と比べ、独居や身寄りのない高齢者は日常の細やかな見守りやケアが得られにくく、要介護状態になると在宅生活を続けることが難しくなったり、急病時の搬送や死亡後の発見の遅れなどの問題が生じることがあります。また、認知症の発見の遅れなどによって、相談支援機関に繋がったときにはすでに本人の意思確認ができない場合もあります。高齢者ご自身が「自分の暮らし方は今後どうなるのか」という不安を抱える一方で、地域包括支援センターのスタッフやケアマネジャーなどの援助者(以下、援助者と表記します)も課題を抱えています。現在、国は、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができることを目指し、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。住み慣れた自宅で生活を続けたいというのが多くの人の願いですが、そのためには高齢者自身の意思決定と自助、互助機能が重要になります。

2.研究をどう進めるか

高齢者本人の意見と専門職の支援経験を集め、課題抽出

今回の研究は、独居高齢者の在宅生活における意思決定支援の実態と課題を明らかにして、今後の備えのための支援を検討することを目指しています。高齢者自身がどのように在宅生活を継続し、最期をどこで迎えたいか意思決定ができるように、援助者と話し合いながら備えを進められる具体的で使いやすい指標を作りたいと考えています。そのために、まず高齢者が在宅生活を中断するにいたった状況、高齢者自身の備え、 援助者の支援内容などについて援助者から意見を集約します。さらに独居高齢者に現在の生活状況と今後の意向、そのための備えの有無について間き取りをします。これらのデータを元に分析を進め、在宅生活を継続の意思決定を支援するために必要な項目をリスト化します。結果については学会などを通じて情報を提供し、現場で働く多くの専門家のみなさんにリストを活用していただきたいと考えています。研究活動を通じ、一人ひとりが希望に沿った生き方を実現し、「万が一」にも備えることができるような環境づくりをしていきたいと思います。

3.研究と教育

研究を学生へフィードバック

この研究はまだスタートしたばかりです。コロナ禍の影響でなかなか作業が進まないのも実情ですが、将来的には学生にも研究の内容を紹介していきたいと思います。看護や福祉をはじめ、対人援助職の道を目指す学生たちにとって、現場で起きている課題について探求し、自分にできることを考えていくきっかけに繋がればと考えています。また、本学は栄養・運動・保育に関する学科もありますので、学科間の連携協働を進めることで、独居高齢者の支援や介護予防、世代間交流などの地域貢献ができるのではないかと考えています。

看護学部看護学科 講師
【専門】公衆衛生看護学

石井 久仁子

【研究テーマ】地域包括ケアシステム/他職種連携におけるケアマネジャーの役割/独居高齢者の在宅生活支援の継続支援/認知高齢者のケアマネジメント/遠隔看護の活用など

リズムや音が、心と体に与えるものは

乳幼児の心身の発達や子育て支援に関する研究を進めている立本千寿子(こども福祉学科)准教授は、臨床心理学と音楽学の専門家です。音楽を通じて子どもと養育者のサポートをしたいという立本准教授に、幼保・こども園や子育て支援などでの豊富な臨床経験に基づいた研究の魅力を聞きました。

「母体心拍音」についての研究に力を入れていると聞きましたが、どんな研究ですか?

世界中どこでも、心を落ちつかせる童謡やわらべうたなどは1分間に70から90拍の穏やかなテンポの曲が多いです。一方、女性の拍動も平均70から90拍で、国籍や人種による差はさほどありません。胎児にとって、母体の大動脈から聞こえる拍動音とリズムは初めての音体験なので、心拍が刻むリズムは安心や癒しを乳幼児に与えるのではと仮説を持ちました。
調査では、幼児に無音、母体心拍音、オルゴール音を聴いてもらい心拍数を測定しました。その結果、母体心拍音を聴かせると、幼児の心拍数が減少することが示唆されました。このことから、母体心拍音の音・リズムは、幼児にとって肯定的な影響がある音源であると考えています。

海外との共同研究を進めているそうですね。

フィンランドは特別支援教育に力を入れている国で、発達に障害のある子どもへのサポートに関しても先進的です。今後、フィンランドの特別支援教育のスタッフと共同で、母体心拍音の発達に課題を持つ子どもへの有効性について研究を進めていく予定です。

音と心にかかわる研究を始めたきっかけは?

教育系の大学でピアノを専攻していた時期は、ピアノは、よい音色で正確に表現豊かに弾くことに注力していました。しかしある日、特別支援学校での実習でひとりの自閉スペクトラム症の子どもと会いました。授業を行った後、休み時間にその子が無表情で私の手を引っ張って、グランドピアノの前に座らせたので、私は「弾いてほしいのかな」と思い、弾き始めました。するとその子はピアノの下に潜り込み、実にうれしそうに音に聴き入ったのです。音楽の力を感じて純粋に感動しました。それから、音楽を使って子どもたちが安全に過ごせる基地が作れないか、と考えるようになり、大学院に進学して臨床心理学、音楽療法を学びました。そのころから大学の附属相談室でプレイセラピーを行ったり、分離不安をもつ保育園児に音楽療法を実施したりするなど、臨床活動も始めました。
 臨床の場で気をつけていることは、ひとまず対象者の全てを受け入れること。自分の物差しは一度捨てて、相手の話を聞く。その後で、必要ならば専門家としての物差しを活用し、コミュニケーションを進めます。

兵庫大では音楽療育などの科目を担当されていますね。

演習では、実際の現場で音楽を使った子どもの支援ができるように、楽器づくりや、フラフープを使った体の動かし方なども学んでもらいます。学生からは「先生、いつも楽しそう」「先生から元気をもらった」などと言われますが、私の方こそ学生と接することでパワーがもらえると思っています。人生の大切な時期を生きている学生たちの、未来を描き実現させていく過程を見守れることは幸せなことだと思っています。

生涯福祉学部こども福祉学科 准教授
【専門】音楽学、臨床心理学

立本 千寿子

【研究テーマ】乳幼児の心身と音・リズムに関する心理学的研究/療育と子育て支援

支援をする人と受ける人、両者の充実した生活をめざして

朝比奈寛正講師(社会福祉学科)は、大学時代の実習で薬物依存症の人々と出会い、卒業後は精神科病院の精神保健福祉士として、さまざまな依存症者の支援に関わってきました。その経験から、もっと効果的な支援を追究したいという思いが膨らみ、臨床の仕事を続けながら大学院に進学。現在は現場が分かる研究者として、ソーシャルワーカーをはじめとする支援の専門家から厚い信頼を得ています。

大学院での研究で、何を得たと思いますか。

KJ法との出会いは研究に大きな影響を与えた

当時の私は「ワーカーは依存症の人に対してどう支援するか」という課題をめぐって、既存の概念を超える方法論がないかと模索していました。修士時代にはワーカーへのインタビューを数多く行ない、質的な側面から研究を進めていましたが、なかなか納得がいく解決法が出せませんでした。そもそも病院での仕事を抱えながらの研究活動だったので、正直に言うと本当に大変でした。
そんな中、博士課程に進んだころに出会ったのが、研究者の主観を活用して情報をまとめ図解化、叙述化する「KJ法」という分析方法です。この出会いによって自分の感覚を言葉にして、人に伝えることができるようになり、質的研究を深めることができました。

研究活動とともに、専門職の養成にも力を注いでいますね。

対人援助の専門職であるソーシャルワーカーの養成は重要な使命です。現場を知る者でなければ、専門職を育てるのは難しいと思います。学生にはつねに、「自分はどう考えるか」を繰り返し言語化するよう働きかけています。それが現場での対応力、コミュニケーション力を伸ばすのです。時折「朝比奈先生は正解・不正解を教えてくれない」と言われますが、精神科の領域にはやってはいけない対応、考え方はあっても、こうすれば間違いなく正解というものはありません。そのことを理解してほしいと思います。
学生がよく戸惑いを感じるのは、精神科病院における実習です。彼らが今まで見聞してきた世界と違っているからです。例えば福祉系の高校で高齢者ケアを学んできた学生は、メンタルヘルスの場では高校時代に学んだ知識や経験が通用しない場合があることに気づき、悩みます。彼らは本当に苦しむのですが、実はとてもいい経験をしています。そんな学生には「君は今、真に成長しているんだよ」と言っています。

今後の取り組みについて聴かせてください。

研究については、これまでアルコール依存者に対する支援を主テーマとして進めてきましたが、今後は、アルコールに加え、薬物やインターネット依存症者への支援にも領域を広げていきたいですね。
実践活動では、以前から福祉の職能団体に関わり、専門職の研修会、講習会などの講師を務めるほか、会員すなわち専門職に対するサポートなどを行なっています。対人支援の質の向上のため、これらの活動には引き続き注力していきます。

最後に、現場で奮闘する支援者と、これから社会に出る学生に一言。

24時間365日、支援者であり続けなくてもいい。勤務時間外には一般住民としての楽しみを味わって過ごしてください。長く福祉の世界で活躍し続けることを願っています。

生涯福祉学部社会福祉学科 講師
【専門】メンタルヘルス、アディクション

朝比奈 寛正

【研究テーマ】アルコール関連問題に対するソーシャルワーク/精神障害者の地域移行支援/救急病院と精神科病院の連携など

次の時代の健康を育むために

幼稚園で「保健室の先生」として子どもたちを見つめ続けてきた経験を生かし、幼児期の心と体の健康を研究する米野吉則講師(健康システム学科)。「幼い子どもにとって、遊びは生きていくのに必要なことの多くを学ぶ場である」という立場から、子どもが「体を動かすと気持ちがいい」という感覚をしっかり持てるようにすることが大事だと語ります。

保育園や幼稚園で子どもの身体活動を計測していると聞きました。

私は、子どもの頃の身体活動が成人期の心と体の健康にどう影響するか、また保育者や家族が子どもの幼児期の身体活動をどう支えていくべきかをテーマに、行政に対する政策提言まで視野に入れて研究を進めています。
4~6歳の子どもたちを対象に、本学の附属幼稚園をはじめ、熊本、福岡、埼玉県の保育園や幼稚園で、運動やダンスなど体を使った活動を計測し、行動の効果を評価しています。子どもたちを社会的に支えるためには、行政とともに幅広い活動を進めなくてはならず、そのためには確固としたエビデンスが必要ですので、各園の先生方と連携して、データの蓄積を進めています。
幼児を対象にした研究は数値化しにくく、研究方法を模索していた時期もあります。そんな中で、身体活動の強度や時間を簡単に計測できる活動量計という計測機器に着目しました。これはとても小型で、現場の先生のご苦労も少なく、機器を装着する子どもたちもあまり負担を感じずにすむものです。
共同研究を続けている幼稚園の先生からは、積極的に感想をいただきます。現場の専門家の実感から出たアイディアに、研究のヒントがあるのではと思うからです。この仕事は、園長をはじめ先生方のご理解とご協力がなければ成立しません。そういう研究に取り組めていることに感謝しています。

研究に取り組もうと思い始めたきっかけを教えてください。

幼稚園で養護教諭として勤務していた頃、健康指導や運動指導をしながら、子どもたちの身体活動量と睡眠時間の少なさを痛切に感じていました。やがて「この問題は、一人ひとりの先生が現場で頑張るだけでは、なかなか改善されないのではないか」と考えるようになり、子どもの健康の専門家として研究を始めようと決心しました。

地域の人々の健康増進に向けた社会活動について聞かせてください。

学生たちと一緒に、2018年から加古川市、播磨町、稲美町、高砂市の2市2町において高齢者の「ロコモティブシンドローム予防講座」を行うほか、各地で子どもと高齢者のための運動と健康をテーマに、講演、教室、ワークショップを実施しています。学問的知見は現場に還元することが大事ですから、今後も研究と実践活動のバランスをとりながら進んでいきたいと考えています。

学生の指導で意識していることは。

学生には、教えすぎないように努力しています。彼ら自身が学ぼうという意欲をもつことが、最も大切だからです。課題に取り組む時には、これまで生きてきた力をフルに生かして考え、自分なりの答えを生み出してほしいですね。現場に行けば、解決できないことや分からないことがたくさん出てくるでしょうが、つねに問題意識をもって歩み続けてほしいと思います。

健康科学部健康システム学科 講師
【専門】発育発達学、身体教育学、子ども学

米野 吉則

【研究テーマ】幼児から学童期における身体活動量の向上を目指した介入研究/学校教育における援助希求の支援に関する研究など

フィールドは、加古川だけじゃない 地方から首都圏へ、そして世界へ

2020年4月に開設した現代ビジネス研究科に、今春より東京サテライトオフィス(TSO、東京都中央区)が誕生しました。その特徴は、ふだんはリモートで学ぶ学生たちが一堂に集い、教員や仲間と熱い議論が実現できる場であることです。東京という立地を生かし、多様なネットワークを創出できるこのサテライトオフィスは、地域ビジネスの現場の活性化に取り組む学生たちの新たな研鑽の場として活用されています。詳しい話を現代ビジネス研究科・松本茂樹研究科長に聞きました。

「この時期だからこそできること」を徹底的に進めよう

「地方創生のリーダーを育成すること」をテーマとして、2020年4月に誕生した兵庫大学大学院現代ビジネス研究科。しかし折悪しく新型コロナウィルスの感染拡大が始まり、その船出は順風満帆とは言えないものとなりました。ベトナム人の院生が来日できなくなり、最初から授業をリモートで進めざるを得なかったのです。しかし研究科ではそんな状況を「インターネットを利用すれば、大学院で学びたい人が場所の制約なしに学べる」とポジティブに捉え直し、「地方の活性化に取り組みたい」と願う志高い若者たちを対象に、Web会議システムを活用したバーチャルな学習環境を整えました。ネットにつながることができれば、どこにいても学ぶことができるようになりました。

学生と教授陣がリアルに語り合える拠点を

それでも、バーチャルな学びを補完する「みんなが一堂に会してリアルに語り合う場所」の必要性はなくなりません。院生たちは、出身地も居住場所も各地に分散し、多数の院生がすでに社会の各分野で活躍しています。教授陣も地域創生のコーディネーター、IT分野の第一人者など多忙な人材揃い。そんな学生と教授陣が顔を合わせるには、交通の便利がよく集まりやすい場所が絶対に必要です。
そこで昨年の9月、東京都内の利便性の高い場所にサテライトオフィスを設置。今年4月からは本格的に始動しました。大学院ではここを拠点として、東京という地の利を生かしたさまざまな試みを計画しています。他大学院との単位互換制度もその一つ。教授陣の人的ネットワークを活用し、東京大学大学院などとの単位互換を行う予定です。また、総務省やその外郭団体、地域活性化を担う諸団体との連携を深めていくことも考えています。

バーチャルとリアル、双方のよさを提供したい

私たちは、サテライトは東京だけで十分だとは考えていません。多様な地域の現場を見て、考え、活動する学生をサポートするために、各地の自治体や大学、各種組織と連携し、もっと多くの拠点を作っていく予定です。
本学は、世界中の学生がバーチャルとリアル、両方のキャンパスからメリットを得ながら大きく成長していけるような環境を提供していきます。このサテライトから日本、そして世界を動かす力が巣立っていくことを願っています。

東京サテライトによる「現代ビジネス研究科」の目指す姿

21世紀の未来のために地域創生で確実な成果の出せる人材を育成する

育成方策
▶インターンシップ、シャドーイング等実践演習
▶東京大学大学院「地域創生講座」単位互換準備中
▶客員教授はじめ地方創生所管省庁の講師陣による講座開講
▶社会人院生を主体としたオンライン授業
▶地域創生実践プラン指導

メリット
現代ビジネス研究科の教育力向上(全国·世界に通用するレベル)
各省庁との関係強化(施策動向等情報収集力·講師人材確保)
東京大学大学院との協定(予定)によるブランド力向上
首都圏での院生募集力と院生の質向上

活力に満ちた地域づくりを進めるために、本学はさまざまな組織と連携して多彩な取り組みを続けています。JR加古川駅南側に位置する百貨店・加古川ヤマトヤシキとのコラボレーションもその一つで、昨年(2020年)6月には兵庫大学の生涯学習機関エクステンション・カレッジ(EC)」のサテライト教室を同店の3階に開設しました。地域に元気や楽しさを提供するために、本学と百貨店の連携でできることとは。田端和彦副学長が加古川ヤマトヤシキ代表取締役の伊藤正人氏と話し合いました。

地域の個性がにじみ出る魅力的なまちづくりを

伊藤兵庫大学と2019年末に連携協定を結んだ折、「何か一緒にできないか」と声をかけていただきました。その中で浮上したのが、兵庫大学エクステンション・カレッジ(EC)のサテライト教室を加古川ヤマトヤシキのフロアに作る話だったのです。これは面白いと思いましたね。そこから話が進み、昨年のオープン以来賑わいは上々です。

田端駅前のサテライト教室は、本学の学生も活用しています。例えば昨年の春には、こども福祉学科の学生が中心となって「こども大学」という地域の親子対象のイベントをサテライト教室などで実施し、リモートで発信しました。緊急事態宣言下で出歩けない中、多くの親子に楽しんでいただけました。この教室のおかげで、キャンパスで行うのとは一味違うイベントが実現できたと喜んでいます。

伊藤弊社に限らず地方の百貨店は、昨今厳しい経営状況に立たされ、大量の店舗閉鎖が続いています。我々も生き残りを模索し、さまざまな工夫を続けていますが、地域の社会人のために知的な交流の場を形成することは、集客につながる新たな取り組みになるのではと期待しています。
百貨店内で企業が主催するカルチャースクールが開かれるケースは、前例もあるかと思いますが、大学主催の生涯学習講座を百貨店で開催するのは、なかなか珍しいことです。兵庫大学ECの当社収益への波及について、まだ具体的な数字は確認していませんが、集客効果が出ているのではないかと感じています。

行政も巻き込んで、文化・生活の発信拠点をつくる

田端加古川ヤマトヤシキさんは、本学との連携のほか、加古川市とも連携を進めていますね。今秋には市立図書館も開館すると聞きました。

伊藤各フロアを紹介しますと、まず上層階部分は、すでに開設している子育てプラザなど行政施設のほか、加古川市立図書館の移転が決まっています。さまざまな公共の施設が揃い、市民の皆さんが公共サービスを便利に利用できる場となる予定です。

田端中層階は、本学の教室があるフロアを含みますね。

伊藤地下から4階までは、百貨店である加古川ヤマトヤシキと専門店の売り場です。3階に兵庫大学ECが入ったことで、この駅前ビルに産官学が足並みをそろえて入居することとなりました。今後この場所は、加古川のまちをもっと元気にするための文化・生活拠点に育てていけると期待しています。

田端図書館がオープンすれば、また駅前の人々の流れが変わるでしょう。本学の学生も図書館ボランティアとして参加できればいいですね。また、子育て支援の施設と協力して、学生が参加する読み聞かせイベントも開催できそうです。ヤマトヤシキのリニューアルと図書館開館が、駅前活性化のきっかけになることが望まれます。

伊藤加古川駅前の活性化は、旧来の駅前商店街が低迷している中で、非常に重要な課題です。なんとか駅前が賑わっていかないと、東播磨地域の経済は落ち込んでいくばかりですから。

田端駅前商店街も、モノを売るだけの場から、さまざまなサービスや憩いの時間を提供する場になっていくべきでしょう。百貨店と商店街がいっしょにできることもあるのではないかと思います。本学も一緒に取り組みたいですね。

播磨発の「いいもの」を集めたショップがオープン

伊藤地域産業との結びつきという点では、昨年、加古川ヤマトヤシキ1階に「播磨モノ語り」というショップを開設しました。ここは地域の名産品を集約して販売するスペースで、現在、食品や服飾雑貨など100近くのブランドを取り扱っています。企業の製品だけでなく、地元の高校の生徒さんが企画した手作りカレーなども展開しています。播磨のいいものが一堂に会しているということで、高く評価されています。

田端本学が連携している企業や学校からも、出品したいという声が上がりそうです。

伊藤このコーナーはお客様の声がヒントになって生まれました。「駅前百貨店内にどんな場所があればいいと思いますか」とお客様に伺うと、「地元の名産を手軽に買えるお店」という声が返ってきました。「ならば、道の駅が百貨店にあったらいいのでは」と話が進み、開店の運びとなりました。

田端確かに「播磨モノ語り」というショップは魅力的ですね。

地域の個性がにじみ出る魅力的なまちづくりを

田端10数年前、ヤマトヤシキの顧客分析などをして、その時には「団塊とそのジュニアの皆さんにどうアピールするか」が重要課題でした。そのボリュームゾーンに続く核となる顧客層についての決め手がない。いまだに定まっていないのが実情です。とはいえ、まちづくりにせよ商業施設の顧客維持にせよ、大事なのは「魅力」「特色」を打ち出すこと。ヤマトヤシキさんは今後も加古川駅前の顔として、個性ある百貨店として頑張ってほしいですね。

伊藤加古川駅前の今後の人の流れをイメージしたとき、大人がゆっくり滞在できる場所がもっとなければいけないと感じます。加古川はコロナ禍以前から、若者や大人が夜あまり出歩かない。街に魅力がないからなのではと思います。コロナ禍が収束した時、外国人観光客によるインバウンド消費が望めるかというと、このままでは難しいと感じます。

田端加古川は交通という点では、なかなか利便性がよいのですが、長期滞在する機能が整っていないのですね。もともと工業都市だからでしょうか。

伊藤やはり、今後はインバウンド消費も拡大してほしいですね。東播磨地域は、食、ショッピング、スポーツなど、いろいろな海外からの顧客誘致が期待できる潜在的な要素はあると思います。

田端本学の課題の一つにも、海外からの留学生を増やすことがあります。地域との連携に根差しつつ、国際性のある学びを提供できるようになりたいですね。グルメに関しては、栄養マネジメント学科の学生たちが新しい「加古川の名物」となるメニュー開発に取り組んでいます。

伊藤多くの地方百貨店が、著名な専門店をテナントとして誘致し、賑わいを作るというモデルを採用してきましたが、それはもう行き詰まっているように感じます。その次を考えないといけない。
これからの地方百貨店の生き残りに重要なのは、やはり地域との連携です。大学、行政も含めて、いっしょにまちの活性化を進めていきたい。そこに光明があると思います。

田端兵庫大学は、全ての世代の人が生きがいをもって楽しく生きていくお手伝いをする場です。社会人のリカレント教育にも、今まで以上に注力したい。地域をもっと元気にするため、一緒に頑張っていきましょう!

株式会社加古川ヤマトヤシキ
代表取締役

伊藤 正人

兵庫大学・兵庫大学短期大学部
副学長
研究・社会連携担当

田端 和彦